ぬいの創作の庭

月染ぬいの創作活動の庭

真っ赤な愛をたずさえて

座敷童子の沙夜ちゃんのお話(過去作 他サイトから転載)

 

ちょっとした昔話をしよう。何処にでもいる一人の子供が、座敷童子になるまでのお話を…。

 

 

 

木枯らしが吹く中、着物の少女が田んぼばかりの田舎道を歩く。

 

 

「座敷童とは何者なんだ?」

 

 

ピコピコと耳を傾け、唐突に少女に話しかけてくるのは、一匹の猫。しかし、普通の猫ではない。二又に裂けた尾をもつ“猫又”という妖怪だ。

 

 

「知りたいのかえ?」

 

尋ねると、猫又はコクりと頷いた。

 

 

「そうじゃの、そもそも、座敷童子は悪戯好きの子供の妖怪と言われておる。座敷童子が住み着いた家には幸福が、去った家は不幸になるともいわれている妖怪でな」

 

 

猫又はゆらゆらと尻尾を揺らしながら話を聞いている。

 

 

「不服そうじゃの」

 

 

ケラケラと笑って見せた。

 

 

「私が聞きたいのは、お前さん自身のことなんだが」

 

 

猫又はそっぽを向きながら耳を傾けた。

 

 

「しょうがないのう…」

 

 

歩みを止めることなく、少女もとい座敷童子は話し始めた。

 

 

 

 

「とある家での話じゃ。それはそれは昔の話。気付けば家の一室に閉じ込められていた。何故だかそこから出てはいけない気がしたのじゃ。その部屋には私の他にも赤子や、十を数えるくらいの女児が数人おった。そして、いつもふすまの向こうから、子供の声が聞こえてのう…楽しそうに母の名を呼ぶ、子供の声が…」

 

 

 

目をつぶれば、懐かしい記憶が蘇る。

今と変わらぬ感情と共に…。

 

 

***********

 

 

その部屋の中でも、古参なのだろう。一人の少女は私に色々なことを教えてくれた。

文字の読み書き、数の数え方。様々なことを学んだ。

 

 

とある日、少女に“一緒にここから出ない?”と誘われた。

しかし、なぜだか私はここに残ると答えた。何もないこの部屋に。

 

 

次の日による、少女はどこからか持ってきた着物を着て去っていった。

鮮やかな赤色と、どこか寂しさをたずさえて…。

 

 

 

 

幾年か経ち、気付けば子供は一人、また一人と姿を消していた。

今ではもう、部屋にいるのは私一人。

 

 

ある日、何を思ったのか、私は少しふすまを開けてしまった。覗くと、そこでは十を数えた位の男の子が、楽しそうに遊んでいた。傍らには母親の姿が見える。その表情はとても温かく、優しいものだった。

 

 

 

「お母さん」

 

 

 

とっさに声が出てしまった。本当は気づいてほしかったのだ。

 

「私もいるよ」と。

 

 

声が聞こえたのか分からない。けれど、親子の視線は確かにこちらへ向いていた。しかし、視線は冷たく、恐怖の色が滲んでいた。そして、近づいてきた母親は、数センチ開いたふすまをそっと閉めた。

存在を否定された…。それは受け止められない現実だった。

 

 

その夜、泣きじゃくっていた私の耳に入ってきたのは、何かを唱える両親の声、その声が止み、足音が遠ざかって無音になったころ、私はそっとふすまを開けた。

 

 

そこには真っ赤な着物が置いてあった。いつしかみた赤色…。

ふすまの前に置かれた、供物の数々。そして、気付いてしまった。

 

 

 

「嗚呼、私はもう生きてはいないんだ…」

 

 

 

***********

 

その言葉に、猫又はシュンと小さくなった。ばつが悪そうにこちらを見ると、「すまない」と一言謝ってきた。

 

 

「よいよい、まあなんじゃ、ここまで聞いたなら、最後まで聞いてくれんかの?」

 

 

少し、話をしたい気分なのだと座敷童子は答えた。

 

 

 

「…その時、思い出してしまったのじゃ。生前の記憶を」

 

 

そしてまた座敷童子は、ぽつりぽつりと語りだす。

 

 

 

 

 

思い出してしまったのだ。生前何があったのかを。数少ない生前の記憶が脳内を駆け巡った。

 

 

 

「悟ったのだ。今までの供物も、あの念仏もすべて

愛から来るものではない、恐れから来るものなのだと。

 

 

“私は、口減らしのために間引かれ、この部屋に埋められた”

 

あの子供たちも同じく埋められた、私の姉妹だったのだと

 

女児は要らない。だから間引かれた。産んでは何度も後悔し育て、後々殺しては埋めた。自分勝手な行い。

 

 

だから、あれはただの懺悔なのだと…」

 

 

 

「憎んでいるのか…?」

 

 

いや、憎まないはずがないだろう…そう付け足す猫又に、ふふと小さく笑った。

 

 

「憎んださ、でものう、それ以上に

 

 

私は愛していたのだよ」

 

 

そう、込み上げてきた感情。それは憎しみだけじゃなくて、一方通行の愛情で。

どうしようもないくらい溢れる感情は、身を引き裂くようだった。

 

 

確かなのは、絶命(さいご)の時まで、私は親を愛していたということ。

 

 

 

 

 

時が流れても、感情は薄れることを知らない。

 

 

私はまだ、その家にいた。

世代が変われど、子供を羨んでは日々を過ごした。せめて、愛したこの家を不幸にしないように。少しでも力になれるように。

 

災いが降りかかればそれを祓い、病気にかかれば、隠れて薬草を届けた。

 

 

 

いつしか時を忘れていくほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とある日、親子の会話を聞いてしまってのう」

 

 

「会話?」

 

 

いつしか月が昇り始めた頃、一人と一匹は大きな木下で休憩を取りながら、話を続けていた。

 

そう、あの日もこう、月が綺麗な夜だった。

 

 

 

***********

 

 

子供は親に尋ねた。

 

 

「あの部屋には誰がいるの?」

 

 

無邪気な質問だ。私はそっと目を閉じ、答えを待った。

母は答えた。

 

 

「あの部屋には誰もいないのよ」

 

 

その答えは、とても残酷だった。

言葉は心を裂いた。溢れ出す感情は、まるで血のようだ。

 

 

嗚呼、こんなにも苦しい、こんなにも悲しい…!

それは、何よりも生きている証だと思えた。だから叫んだのだ

 

 

「嘘!私はまだここにいる!ここで生きてる、気付いてよ ねえ!お母さん‼」

 

 

泣き叫んだ声に反響して返ってきたのは

 

 

「もうどこかへ行って…ッ‼」

 

 

母の悲痛な叫び声だった。そして、

 

 

“一緒にここから出ない?”

 

 

次に浮かんだのは、昔言われた言葉。

 

 

 

そうだ、どこかへ行かなくちゃ…。

それが最後に望まれたことなら、行かなければいけないんだ…

 

 

 

 

 

***********

 

 

「もう、ここには居てはいけない…。

そう思ったのじゃ。だから、供え物の着物を手に取って家を出た。」

 

 

“血のような真っ赤な着物。私の生きていた証。

せめてこれだけは、持って行かせてはくれないか…”

 

 

 

 

 

そう話し終えると、座敷童子は真っ赤な着物の裾を直した。

 

 

「ずっと、それを着ているのか?」

 

「ああ、唯一の贈り物だからのう」

 

 

そう言って笑う座敷童子は寂しげで、いたたまれない気持ちになった。

 

 

「成仏は、できなかったのか…」

 

 

 

その言葉に、座敷童子は口元を隠しケラケラと笑った。

 

 

 

「確かにそうじゃの、今でも不思議に思うよ。

でも、愛情は尽きることを知らなかった。それどころか増す一歩での。おかしいじゃろ?神頼みをしたくらいじゃ。でものう、とあるお方が私に問うたのじゃ

 

 

“本当にそれでいいのか?”と…」

 

 

 

**************

 

小さな神社に着いた時、私は神頼みをした。

 

 

“どうか、この愛が尽きますように”と…

 

 

死んだ人間が神頼みなど、馬鹿らしいと思った。

私は一生、このまま彷徨い続けるのだと、そう思っていた。

 

 

その時、鈴の音と共に声が聞こえた。

 

 

「本当にそれでいいのか?」

 

 

ハッと顔を上げると、さい銭箱の向こう側に、狐面の長い黒髪の男が立っていた。

 

 

 

*************

 

 

「いかにも怪しげな…」

 

 

猫又がそういうと、確かにと笑った。

 

「私もそう思ったのじゃ。誰かと尋ねると面白い返答が返ってきてのう。

 

“狐の使いとでも言っておこうか”と言ってきたのじゃ。

世間知らずの私でも不審に思ったもんじゃ。

 

 

でものう、その方の言葉が刺さるように耳に届いたのだ」

 

 

 

***********

 

 

黙りこくっていた私に男は尋ねた。

 

 

「いいの?」

 

 

良いのだこれで

 

 

 

 

「本当に?」

 

 

 

そう望まれたのだから…

 

 

 

 

「嘘つき」

 

 

男の言葉にドキリと心臓がはねた。

 

 

「本当はそう思いたいだけだろう?」

 

 

心臓の音がうるさい。血液が体中を巡る。

 

 

 

 

そう、失望していたのだ。愛というものに。

けれど、それでも愛していたいのだ…。

何より怖かったのは“生きていない”のではない

“生きてはいけなかったのだと”言われることだった。

 

 

気付いてしまった時にはもう遅く、枯れてしまっていたはずの涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

しばらく泣いていた私は、泣きはらした目をこすった。

 

 

「落ち着いたかい?」

 

 

ずっとそばに居てくれたのか。男はさい銭箱の隣に座っていた。

男は、私の頭を撫でてくれた。とても温かな手で。

 

 

この人は生きた人間なのか…

 

 

手のぬくもりで察してしまった。そして急に寂しく思った。

結局私は一人なのかと。

 

 

「それより、あなたは何者なんだ?どうして私が見える」

もう死んでいるのに。そう付け足した。

 

 

 

*************

 

 

「なんて返ってきたんだ?」

 

 

猫又は興味津々に聞いてきた。

座敷童子は、ため息交じりに答えた。

 

 

「本人の事など教えてはくれなかったさ…

でも面白いことを言ってきた。

 

“君はまだ、生きているだろう?”とな。」

 

 

 

 

 

 

 

男は言ったのだ。

 

 

「君はよく頑張った。長い時間を費やし、愛を注いだ。だからもういい…」

 

 

「私はもう消えるのか?」

 

 

そう思わせる言葉に心臓がドクドクと脈を打つ。

 

 

「人間にとっては、そうだったのかもしれないね」

 

 

「ここで私は殺されるのか?」

 

 

今度は本当に…この魂さえも

 

 

 

その答えに男はクスリと笑った。

 

 

「何を言っているんだ。君はまだ、ここで生きているだろう?

生きていたいんだろう?なら、あちら側に行けばいい」

 

 

 

あちら側?何を言って…

 

 

 

さあ、おいでと言って、男は神舎の鳥居に向かって私の手を引いた。

くぐるとそこには大きな平屋があった。どこか懐かしい故郷に帰ってきたような、そんな安心感のある場所だった。

 

 

「君はもう、とっくに座敷童子として

 

生きていたのだから…」

 

 

 

その言葉に心は満たされていった。

 

 

 

 

**********

 

 

「長くなったのう」

 

 

再び歩き出した座敷童子が、一言そう謝った。

猫又は「いいんだ」と言いながら、その後に続く。

 

 

「今では立派な座敷童子よ。

 

さて、着いたよ」

 

 

 

たどり着いた先は神社の鳥居の前。

一見するとただの神社だ。

 

 

 

「ここは?」

 

 

「あやかしの世界の入り口じゃ。さて、いこうかの」

 

 

そう言って鳥居をくぐると、始めてくる懐かしい世界が広がる。

 

 

「ここが君の言っていた…」

 

 

「…沙夜と呼んでくれてかまわん。そう、ここが私の。そして花殿の居場所じゃよ」

 

 

猫又もとい花は、広がる景色に見とれていた。裂けた尾を揺らしながら。

 

 

 

容姿が変われど、時代が変われど

 

 

どんな姿になろうとも、懸命に生きていた。それ尾は生きた証。

 

 

 

そんな姿に自分を重ねてみていたのかもしれない。

 

 

 

“そう、とっくに人ではなかったのだ。

それでも生きていたいと願えたならここに居ればいい”

 

 

たとえ生から離れた存在だったとしても

どんな姿になろうとも、私たちは

 

 

どうしようもなく

 

 

“生きている”

 

 

 

だから、あの方から言われた言葉。今度はあなたに届けよう。

 

 

 

「歓迎しよう。

 

ようこそ、あやかしの世界へ」

 

 

 

 

 

 

弔いの花

悠くんと弥都ちゃんの出てくるお話

(過去作 他サイトから転載)

 

とある雨の日、通学路と書かれた路上に黄色い傘を差した子供が見えた。

夕焼けの鐘はとうに鳴り終わった薄暗い夜道に、ぽつりと置き去りにされたようにたたずむ子供

 

こんな時間に迷子…?

 

小学校五年生、森井栞鳴(もりいかんな)はその黄色い傘に声をかけた。

 

「ねえ、君どうしたの、こんな時間に」

 

そう声をかけると黄色い傘から子供の姿が見えた。

小学校1.2年生と言ったところか、黒いランドセルには黄色いカバーがかけられており

それは街灯を照り返して存在を主張する。

 

『僕はまだここにいる』

と言っているように

 

 

栞鳴は気づかなかった。

街灯の下に置かれた弔いの花束に…

 

 

*******

 

「お兄様、おはようございます!」

「おはよう、みーちゃん」

 

お兄様と呼ばれた青年はゆっくりと微笑むと少女に向かって返事を返した。

みーちゃんと呼ばれた少女はそれに少し頬を赤くする。

 

みーちゃんもとい、柊弥都(ひいらぎみと)は青年、柏木悠(かしわぎゆう)に

ひそかな恋心を抱いていた。

 

元々、柊家という霊能体質の家柄に生まれたせいで幼い頃から幽霊が見え

それに悩まされてきた弥都にとって悠は救世主であり心から尊敬する存在だった。救世主となった理由は…おいておくとして

 

今日もかっこいいな…

 

のんびりと食事をとる悠を見ながらそんなことを考えていると

 

「そろそろ時間じゃない?」

「え、あっ!遅刻しちゃう!!」

 

時間はとっくに出かける時間を過ぎていた。

普段なら親友の栞鳴が迎えに来てる時間だがその気配はない。

不思議に思いながらも弥都は学校へ急いだ。

 

まだ雨は降り続いている。

 

こういった日は苦手だと思いながらいつもの通学路を歩いていると先の方に見知った後姿があった。

栞鳴だ。声をかけようとしたが栞鳴の隣にいる黄色い傘の子が目に留まった。

 

栞鳴は一人っ子のはず、じゃああれは誰だろう…?

どうして栞鳴は傘をさしてないの?こんな雨の中で…

なんだか嫌な予感がし、ぞくっと背筋が凍るような寒気が襲ってくる

するといつの間にか辺りは霧に包まれていた

 

「かん…な…?」

 

か細い声で紡いだ言葉は雨音に消されていく。

栞鳴の代わりに振り向いた黄色い傘。

その姿は血にまみれ、首がありえない方向に向いて曲がっていた。

黄色い傘の子はケタケタと笑いながら栞鳴の手をひいて霧の中に消えていく。

 

「ま…待って…!栞鳴!!」

 

 

**********

 

 

 

 

「…雨、止まないね」

 

小さな黒猫を撫でながら、悠は窓辺でくつろいでいた。

生まれながらに不思議な力を持っていた悠は霊や妖怪といった類のものに好かれる体質らしく、普通の生活が困難なため退治屋である柊家に身を置いていた。

 

現に今撫でている黒猫も猫又という妖怪だ。

裂けた尾を持つ猫の妖怪である。

 

「どうしたの?夜月」

 

猫又、夜月が窓のふちに飛び乗り何かを目で追っている

いつもは大人しいのに珍しいと悠は夜月の視線を追うと、さっき出て行ったはずの弥都が走って屋敷の中に駆け込んできたのが見えた。

 

「みーちゃん、どうしたの?」

 

慌てた様子で駆け寄ってくる弥都に尋ねると

弥都はボロボロと泣き出した。

 

「か…グス…栞鳴が…

幽霊に連れてかれちゃった…ッ!」

 

そういうと、うわああんとその場で泣き出す

元々弥都は幽霊の類が大の苦手で見ただけで泣き出すのだが、

今回は親友が連れていかれた事も合って泣き様がひどかった。

 

悠はなだめつつ夜月に指示を出す。

 

「夜月、探ってきて」

 

そういうと夜月は屋敷の外に走っていった。

 

 

********

 

「少し落ち着いた?」

「…うん」

 

泣きはらした目元をこすると弥都はこくりと頷いた。

 

「どうしよう…」

 

先ほどから同じ言葉を繰り返す弥都

どうしようかと悩んでいると窓から夜月が姿を現した。

 

「おかえり、どうだった?」

 

その問いに夜月は雨でぬれた体をぶるぶると振った後、

ドロンと人に化けて報告に入った

 

「聞いて回ってきたが、どうやら小娘と同じ学校の“岩井修太”という小僧らしい。先日自動車事故に巻き込まれて亡くなったそうだ」

 

「事故…」

 

夜月の説明に弥都はまた泣き出しそうになる。

 

「お兄様、どうして事故にあった子が栞鳴に憑りついてるの…?」

 

「うーん…そうだね

 

例えば、みーちゃんがいきなり死んじゃったとして

最後にしたいことって何だと思う?」

 

悠はいつものらりくらりと質問をかわしては

意味深な言葉を投げかけてくる。

弥都はいつもそれに悩まされるのだ。

実際今回もうーんと唸りながら考えた

それはそうだ、いきなり死んだら誰だって心残りはあるはず

一つになんて絞り切れないだろう。

 

「たくさんありすぎて分かんないよ」

 

その答えに悠はクスっと少し笑った

不謹慎なと夜月は思ったが口は出さないでおく。

 

「そうだね、それが未練ってやつで、

後悔したことがあるから、未練があるから

あちら側に行けずに現世にとどまってしまう。

 

霊はね未知の生き物じゃない

元は同じ人間だから惹かれあっちゃうんじゃないかな」

 

「難しくてわかんないよ」

 

「ちょっと難しかったかな?

幽霊は案外怖いものじゃないかもしれないよってこと!

さあ、助けに行こうか…と言いたいところなんだけど…

 

悠はゆっくりと腰を上げるとふすまの向こう側に目を向けた

そこには悠の監視役の仲井さんがこちらを心配そうに見ていた。

 

ここで悠が動くと仲井さんがお叱りを受ける羽目になる。

悠の体質を知っている柊家のじっさまがつけた監視役だ。

 

「…僕はじっさまを説得してから行くね

夜月は連れて行っていいから、頑張って!」

 

頑張ってと言われても…

でも今は私しか栞鳴を助けられる人はいないんだ

私も立派な退治屋になるんだから…!

 

弥都の家、柊家は代々続く退治屋として有名な家だった。

弥都もその家の血を継ぐ者で将来は退治屋になるため日々修行をしている身だ。

しかしながら幽霊嫌いのせいでほとんどと言っていいほどそれは身になっていない。

 

本当に小娘だけで大丈夫なのか?

 

夜月は内心そんなことを思いながら霧の中を進む。

 

もうすぐ事故現場だ。

情報によると今回の霊は地縛霊らしい

ならば自分が死んだ場所からそう遠くにはいけないはず

 

「居た!」

 

弥都の指さす方向に人影が二つ。

どうやら栞鳴と霊の少年らしい

 

濃くなる霧とそこだけぽつんとくりぬかれた様に事故現場と二人の姿が現れた

栞鳴はうつろな表情で少年の手を握っている

少年はその手を大事そうに握り返していた

 

「お、おねがい

その子を開放して!」

 

『うるさい…!』

 

説得を試みるが返ってきたのは禍々しい言葉だった。

少年はこちらをきつく睨み返す

すると辺りの霧が一層濃くなり弥都の体に纏わりついてきた。

 

やばい…!のまれる!

 

そう思った瞬間身体が恐怖でこわばった

だんだんと意識が遠のく

 

嫌だ…このままじゃ…

怖い助けて…!

 

 

弥都は霧にのまれ、意識を手放した

 

 

 

 

***********

 

誰かの声が聞こえる

ああ、これはきっとあの少年の記憶だ

 

霊は時々こうして記憶の一部を見せてくれる

お兄様は大事なものだからちゃんと見ておくんだよと言うけど

みんな悲しくて辛いものばかりだから、私はあまり見たくない

 

夕焼けの鐘が鳴る雨の日、黄色い傘を差した少年は弥都と同じくらいであろう少女が手を繋ぎながら歩いている。

 

「お姉ちゃん、今日はご飯なんだろうね」

 

「ハンバーグかな、オムライスでもいいね!

お母さんに頼んでみようね」

 

「うん!」

 

それはとても温かい記憶

きっと姉弟なのだろう。とても仲のよさそうで二人とも笑顔で…

しかしそれは急に切ない悲しい話へと変わった

 

手を繋ぐ二人

その後ろから、迫るトラック

 

一瞬の出来事だった

はねられた二人。

 

無残な骸となって転がった二人の手は離れ離れになっていた。

首の骨が折れた弟の目から涙がこぼれた

 

『お姉ちゃん…どこ?

会いたい、会いたいよ

一緒にお家、帰ろ?

 

その声は虚しく誰にも届くことはなかった。

 

 

******

「おい!おい、小娘!起きろ」

 

 

ハッと目を覚ますと事故現場の街灯の真下にいた。

そこには弔いの花とお菓子やジュースなどがおいてあった

 

ここで、あの子は…

 

最後に意識はあった。懸命に姉の姿を探していた。

即死ではなかったんだ、きっと

 

「大丈夫か?」

 

夜月がたずねてくるが、全然大丈夫じゃない

ボロボロと溢れてくる涙にパニックになる

 

こんな悲しいことあったら誰だって後悔する。

そんな子を退治しなきゃいけないの?

でも、このままじゃ…

 

葛藤する弥都に少年が近づいてきた

街灯に照らされる少年の姿は事故当時のまま無残なものだった

 

「な、なに…?」

 

その姿に怯えて足に力が入らない

 

『お姉ちゃん、帰ろう…』

 

そう言って少年は弥都の手をひき始める

ズルズルとひく手は冷たく氷のようだ

弥都の体はだんだんと暗闇に引きづりこまれていく

払いのけようとしても少年の手は、拒絶できないほど大きな力だった。

 

「嫌…!そっちにはいきたくない!!」

 

そう叫んだ時だった

 

「夜月!その子をひきはがして!」

 

力強く発せられて声に反応して黒猫の姿で夜月は少年の手に噛り付いた。

少年は悲鳴を上げながら弥都から距離をとる

 

『う”ぅううぅぅ…だ、れ…』

 

声のした方を見るとそこには走ってきたのだろう

息を切らした悠の姿があった

 

「その子たちは君のお姉ちゃんじゃない…

もう気づいてるんじゃないのか?

 

『う、る、さい…

おねえちゃんと帰るんだ…一緒に…

 

少年の言葉は悲しく空に響いた

弥都は黙って泣くことしか出来ない。

悠は一歩ずつ近づいては言葉を投げかける

 

『くるな…!』

 

「君は間違ってる。」

 

『僕は間違ってない!』

 

「無関係の人をまきこんじゃダメだよ」

 

そういうと悠は深呼吸をした

そして微笑みを浮かべると

 

「大丈夫、今からお姉ちゃんに会わせてあげる」

 

おいでと自分の後ろにいた人物の手を引いた

 

『……!』

 

そこには、弥都が少年の記憶の中で見た少年の姉がいたのだ。

ボロボロになった服、体中にできた傷、足が折れているのだろう捻じれ血を滴らせながらふらふらとこちらに近づいてくる

 

「なん、で」

 

驚愕する弥都に夜月は近づき

 

「未練があったのは弟だけじゃなかったって事だろう…

姉もまた弟を探し彷徨ってたわけだ」

 

そういいながら弥都の体を抱え悠のそばに移動した

 

街灯の下、あの日、離れ離れになった姉弟が再会する。

再会に涙したのか、変わり果てたお互いの姿に涙したのか、それともその両方か

二人の目からは血とともに涙が流れた。

 

『おねえ…ちゃん…?』

 

その問いかけに姉はコクりと頷くと

 

『修太…かえ、ろ…』

 

そういってボロボロになった手を差し出す

それに応え、弟はその手を握り返した。

強く強く、涙をぬぐうことも忘れて、

そして悠達の方に向き直ると頭を下げた。

 

『ありがとう』

 

「もう迷わないでいけるね?ちゃんと帰るべきところに帰るんだ」

 

二人は自覚できていないのだ、まだ自分たちが死んだことを。

それは家に帰れば本当の事に気付くはず

 

弥都は二人の両親の姿を思い浮かべた。

きっといきなりわが子を二人も失って悲しんでいるはずだ。

二人は帰ってもそんな両親の目に映ることはないだろう、どんなに頑張っても、きっと

そう考えるだけでまた涙が溢れ出てきた。

 

『ばいばい』

 

夕焼けの鐘がなる。雨はいつの間にか止み、雲間から光がこぼれる。

立ち込めていた霧は薄れていく、姉弟姿とともに。

その後ろ姿はあの日と同じ楽しそうなものだった。

そしてその姿に一層悲しみが沸き上がるようだった…。

 

 

******

「…な…かんな!」

 

弥都が必死に栞鳴に呼びかける。

姉弟が去ったあと街灯の下に栞鳴はぼうっと立ちすくんでいた。

弥都はすぐさま栞鳴に駆け寄るとボロボロと泣きながら名前を呼んだ。

 

「う…ん…なに?ってあれ

私何してたんだっけ!?てか弥都ったらなに泣いてんの?」

 

正気を取り戻した栞鳴は泣きじゃくる弥都の背中をさする

どうやら記憶が抜け落ちているようだ。

悠が説明をするとぽかんと口を開けて固まってしまった。

 

「まあ、無事で良かったよ

ね、だからもう泣き止んでみーちゃん」

 

そうなだめるとふええとまた泣き出してしまう弥都。

 

「なんであんたはまた泣くのよ!」

 

よしよしと背中をさすりながら栞鳴はつっこみを入れた。

 

「だって、私何も出来なかった」

 

ああ、落ち込んでいたのか

あははと力なく笑うと悠は少しかがんで弥都の視線に合わせた

 

「幽霊嫌いのみーちゃんがここまで頑張ったんだから

もっと胸を張ってもいいんじゃないかな?

それに、退治しないで済んだのはみーちゃんが時間を稼いでくれたからだよ」

 

霊を退治する方法は成仏させ浄化するか除霊を行うかだ。

除霊は霊を殺すことと同じ。もう一度死という苦しみを与える行為。

 

「最後に苦しくて痛い思いをさせなかった。お友達も守れた。

除霊しなくて済んだのはみーちゃんのおかげ!

よく頑張ったね」

 

悠は弥都の頭を撫でながら笑顔を向けると

うわぁぁんとまた泣き出す弥都。

 

「ええ?!」

 

「なんでまた泣き出すのよあんたは!」

 

「全く泣き虫なのは変わらんな小娘…」

 

泣き虫退治屋に苦笑いをする三人だった。

 

 

 

********

 

 

窓から家の中をのぞく姉弟。視線の先には両親と、自分たちの遺影が飾ってある仏壇が置いてある。

 

『いこうか、お姉ちゃん』

『うん。』

 

二人は両親の手を一度ギュッと握ると満足げに笑って消えた。

 

『ただいま』

 

 

 

 

毒リンゴにキスをして

※白雪姫パロ(過去作 他サイトから転載)

 

 

「おーい、おいセラ!どこ行くんだ?」

 

とある日の事、珍しく出かける支度をしているセラに、

友人であるウォズが声をかけた。

 

セラは寝ぼけながら灰色の髪を左サイドに軽く束ねると、

普段からつけている黒い目隠しを付けた。

目隠しと言っても右目のところは破けていてあまり意味を成していないが。

 

「なんか珍しくお呼びがかかったんだよ」

 

そう答えると、いってくると手を振り移動用の魔法陣に消えていった。

 

 

ここは地獄。悪魔達が巣食う地下都市。

悪魔の召喚を受けたものはそれに応えるためこの地の最下層にある、

魔法陣を使って召喚に応じるのだ。

 

誰だか知らないが随分と温厚な悪魔を呼んじまったなぁ。

 

 

「うーん、もう一回寝るか」

 

ウォズは考えるのをやめるとアホ毛を揺らしながら自室に戻った。

 

 

*******

 

 

ここは絵本、白雪姫の世界。

城の一室、魔法の鏡に向かって、呪文のように何かを呟いているのは、この国の王妃だ。

 

「この世で一番美しいのはだあれ?」

 

その問いに魔法の鏡は答える。『白雪姫です』と。

 

「この世で一番美しいのは?」

 

またも同じ質問を繰り返す。鬼のような形相はお世辞にも綺麗とは言えない。

元々嘘をついてはいけない魔法がかかっているのだ。

しょうがないではないか。

 

『だから白雪姫です。というか王妃、何回目ですか?もう飽きました。』

 

「うるさいわね!嘘でもいいから私が一番と答えなさいよ、寝かせないわよ」

 

もう意地である。こんなことの繰り返しで何日寝ていないだろうか。

王妃は目の下に大きなくまを作りながら鏡と口論していた。

 

『というか悪魔は召喚できたんですか?私ももう寝たいんですが』

 

「もうすぐよ!もうすぐ呼べるはず…!」

 

そういってちらりと血で書かれた魔法陣を見やる。

そこには胡座をかいてこちらを眺める灰色の悪魔、セラの姿があった。

 

「ひっ…!」

 

王妃の口から悲鳴が漏れる。

やっと気づいてもらえたかとセラは安堵する。

そして何の用だと口を開こうとしたその瞬間。

 

バタンッ

 

倒れ寝息をたてる王妃。

 

「えええええ・・・もう帰っていい?」

 

飽きれるセラに魔法の鏡は叫んだ。

 

『お願いだ、待ってくれええ!!というかいつから居た?!』

 

10分くらい前から。

 

『じゃあ止めてくださいよ…。』

 

***********

 

『では仕切り直して、どうぞ王妃。私は寝ます。』

 

目を覚ました王妃に、鏡は投げやりに話をふって眠りについた。

 

「寝るのは早ッ。まあいいわ、悪魔よ。

地獄に送ってほしい子がいるの。」

 

しっかり10時間睡眠をとった王妃は、すっきりした様子でセラに向き直った。

それに対し眠たげな視線を送るセラ。

 

「それだけ?もっとさ、こう大きな事やろうとか思やないわけ?

一応悪魔なんだけど俺」

 

「うるさいわね!だったら他の悪魔呼ぶからいいわよ」

 

そう言い魔法陣を消そうとする王妃。

 

「待て!別にやらないとは言ってない。」

 

焦ってそれを制止するセラ。実は退屈していたのだ。

何よりここで帰されてはウォズに笑われる。

 

じゃあ、と王妃は嬉しそうに地図を広げると王国の近くにある森を指さした。

 

「ここに生息してる白雪姫を地獄に落としてちょうだい!」

 

「生息って…雑な扱いだな」

 

「あんな子なんて雑な扱いで十分よ!とりあえずこの子がいなくなれば私は世界で一番になれるのよ」

 

胸を張って言う王妃に、どこから来る自信だと苦笑いするセラ。

 

「じゃあ、偵察行ってくるわ」

 

「今すぐ落とせばいいじゃない」

 

どんだけ嫌いなんだよと思いながら

 

「ルールってものが有るんだよ。

まあ、適当に暗殺でも企ててくれ、じゃあな」

 

 

そういって窓の外に消えていった。

 

 

 

*************

 

王国の近くの森の奥。

セラは木の上に座りながら小さな小屋を眺めた。

小屋の中に白雪姫はいた。

 

艶やかな背中まで伸びた黒髪、漆黒の瞳、リンゴのような赤い口紅に白い肌。

どこか大人びた少女の名は白雪姫。

 

「いやいやいやいや。大人びすぎでしょ

確か白雪姫って設定では7歳でしょ?テラーのやつ突っ込む子間違えたんじゃないの…」

 

テラーとは物語の主人公を他の世界から引きづりこむ役の事を言う。

本来、一度主人公が物語を終わらせると、次の主人公に移行するのだが、

その時にテラーは新しい主人公をどこからか連れてくるのだ。

今回の白雪姫はどうみても7歳ではない。それに動揺しているとどこからか現れたウォズが書類をパラパラとめくりながら

 

「いや、確かに白雪姫になったのは七歳で合ってるんだけど、王妃が殺し損ねてるうちに12歳まで成長したらしい。それにしてもちょー色っぽいじゃん。ホントに12歳?

 

と答える。

 

「うわ!なんだお前か」

 

「暇だったから来た。」

 

にやっと笑いながらウォズはセラの隣に座る。

 

「どうする?」

 

「とりあえず、少し様子をみよう」

 

 

******

 

「ああ、よく寝た」

 

白雪が目を覚ますと、日はとうに天辺に上がっていた。

少し寝すぎたかしらと白雪は思ったが、

まあ何もやることもないし、いいかと思いながら窓の外を見た。

どうやら小人たちはどこかへ行ってしまっているようだ。

 

「誰もいない…お腹すいた。」

 

テーブルに視線を移すと、食事がしっかりと用意されていた。

その隣にはデザートのリンゴまでおいてある。

なんという贅沢な。そう思いつつリンゴを手に取る。

 

実を言うと、これは白雪が眠っている間に、王妃が召使に頼んで支度させた毒リンゴだ。

そんなことも知らずに白雪は、そのリンゴをひとかじり、咀嚼し嚥下する。

常人ならここで血を吹き出し死んでいるところだ。しかし白雪は違った。

 

「ねむ…」

 

そのままベッドに移ると寝息をたてて寝始める。

若干顔色が悪いが、それ以外は普通だ。寝言を言えるくらい普通だ。

部屋をのぞいていたセラとウォズは思った。

なんだ、この娘は…。

 

丁度30分が経過した時、小人の一人が帰ってきた。

 

「ただいまー。って白雪!あなたまた毒リンゴ食べたでしょう!」

 

そういいながら白雪の頬をぺちぺちと叩く。

うーんと言いながら目をこする白雪は、眠気眼で小人に

「よっ」と片手を上げて挨拶をした。

 

「よっ!じゃないですよ!

なんで毎週毎週引っかかるんですか!てか王妃も進歩しないですな…」

 

飽きれる小人。それもそのはずだ毎週このやり取りをしてるのだから…。

 

この罠は毎週月曜日になると始まる。

月曜は毒リンゴ。毎度白雪は、そのリンゴを食べては、眠いだるいと言って横になる。しかし毒耐性が付いたのか、この頃少し寝れば治ってしまうという状態だ。

 

火曜になると、毎度殺人鬼が家を訪ねてくる。しかしこれは小人たちが罠を仕掛け撃退…。を試みるが大抵は白雪が罠を全部作動させ、小屋を全焼させる。殺人鬼もそれを見て退散。

 

水曜になると、小屋を修理するために、小人たちは白雪を放って汗だくになって働く。ちなみに、この日は定休日なのか何もしてこない。その頃白雪は森に鹿を狩りにいく。完璧に野生児である。

 

木曜になると、小屋の修理も終わり、のんびりしていると森の熊さんが襲来。

白雪は熊さんを家に招き入れもてなす。毒リンゴで。

 

金曜になると、しびれを切らした王妃が自ら訪ねてくる。

大きな斧を持って。そして白雪に切りかかるが、白雪はそれをひらりとかわし、王妃の腹に一発こぶしをねじ込む。気絶した王妃を召使が悲鳴を上げながら回収していくという無限ループを繰り返している。

 

土曜になると、王妃は城で呪いをかける。白雪に災いが降りかかるが、幸運なことに今までそれに殺されかけたことはない。大抵は小人たちが犠牲になっているからだ。

 

こうして訪れた日曜日、ボロボロになった小人たちは休暇をとる。

一人になった白雪は部屋で寝て過ごす。ちなみに、この日も定休日なのか誰も何もしてこない。

 

 

と、まあそんなこんなで、白雪姫は物語を終わらせることなく5年間も生き、王子に出会えないでいるわけだ。そもそも肝心な時に王妃は罠を仕掛けるのをやめる。週休2日制、とってもホワイトだ。

 

ウォズとセラはそんな白雪の一週間をみて思った。

 

この白雪姫やばい…!

 

「ってことはあれか、これだけやっても無駄だったから、悪魔を召喚したわけか」

 

苦笑いを浮かべるセラにウォズは言った。

 

「セラ、お前死ぬんじゃねえの?」

 

その言葉に顔面蒼白するセラ。

 

「縁起でもない事いうな」

 

「だって僕ら人を殺す悪魔じゃないじゃん」

 

きっぱりと言うウォズ。

確かに。ウォズとセラは人の意思を支配する悪魔だ。

人を殺すとかいう強力な力は持っていないのだ。

何か考えねば…。

 

「とりあえず、白雪を小屋から引きはがすとこから始めよう。

あれは奴の砦だ」

 

*******

「さて、どうやって白雪を誘い出すか…」

 

ウォズとセラは、一旦城へ戻った。

王妃に報告がてら作戦を練るためだ。

 

城の一室、最初に呼び出された魔法陣のある部屋に入ると、

王妃がまた魔法の鏡と口論になっていた。

 

『だから、何度言っても変わりませんよ!』

 

「うるさいわね!何度でも聞くわよ」

 

鏡に威圧する王妃は、こちらに気付いていない様子だ。

しょうがない、声をかけるか。

 

「おーい、王妃さま。戻りましたよ」

 

「あら、おかえりなさい。随分と遅かったじゃない」

 

セラの声に反応する王妃は,セラとウォズの存在に気付くと

 

「あらあら、悪魔がもう一人増えて嬉しい限りだわ!」

 

とウキウキと浮かれる王妃。

 

二人はとりあえず現状を報告することにした。

一週間のやり取り、白雪の特性等々を…。

 

 

 

「それでだ、王妃。

あの砦から白雪を引きずり出すぞ」

 

セラが意気込むとウォズもうんうんと頷きながら賛同した。

 

「でもどうやって?」

 

まあ、そうなるよな。

うーんと悩んでいると、ウォズが提案した。

 

「まあ、招待状一つでほいほい付いてきそうだけどな」

 

その案に

「それよ!今すぐ招待状を書いて届けさせるわ!」

 

名案とばかりに、王妃ははしゃぎながら準備に取り掛かった。

 

 

***********

 

翌日、門の前には白雪の姿があった。

どういうわけか、いつも一緒にいる小人は一人も連れていない。

王妃が招待状にそう書いたのだろうか…。

白雪は、門の前にいる兵士に招待状を見せると、兵士たちは門を開けた。

白雪は特に戸惑ったりする様子もなく、どーもと手をあげて城の敷地に入ると、

中には執事と思われる年配の男が待っていた。

 

「ようこそ、よくおいで下さいました。

王妃がお待ちです。こちらへ」

 

そういって案内されたのは、鏡の間。そこにはセラが召喚された魔法陣も書かれている。部屋には禍々しい空気が漂っていた…殺気である。王妃は白雪と対面すると、にやりと笑った。

 

「よく来たわね白雪!今日こそあなたを地獄に落としてあげるわ」

 

王妃にはウォズたちから助言を受けた作戦があった。この部屋に描かれた魔法陣を使って新たな悪魔を呼び出すのだ。ちなみにウォズたちは部屋の隅っこで見物している。

 

「それより、そこにいるのは誰です?」

 

ウォズたちに気付いた白雪は質問を投げかける。

ウォズたちは一瞬ドキリとしたが、すぐに平静を取り戻すと

 

「ただの観客だ、お気になさらずー」

 

と軽口を叩いた。すると白雪はいきなり興奮した様子で言った。

 

「まさか私と王妃のリアルファイトを見物しに来たんですか!」

 

まさかの発言に動揺する悪魔二人。

 

「なんだそれ!?」

 

何のことだと王妃に視線を送ると、王妃はふふふと満足げに笑う。

白雪は招待状を広げると、内容を確かめるように読みだした。

 

「よくわかんないですけど、招待状に“明日、お前のお命頂戴する、覚悟しておけ。PS、城でパーティを開きます。良かったら来てね”って書いてあったので、小人たちに聞いたんです。お命って何ですかって。そしたら危ないから逃げてとか絶対に行っちゃダメとか言うんで

 

 

「じゃあなんで来たんだよ!というか、それ招待状っていうか予告状!」

 

つっこむセラに

 

「行くなと言われるとつい好奇心で…王妃はいつも私に襲い掛かってくるのでその件かと思いまして。…腕が鳴りますね。あと食事もたのしみにしてます。」

 

本当にこの子は白雪姫なのだろうか…。白雪の言動に動揺する悪魔二人だった。

 

****

 

屈強な剣士のごとく凄まじい覇気を漂わせた白雪。

ぞっと悪寒がする悪魔二人に対し、王妃は感覚が麻痺しているのか、

動じることもなく悪魔召喚の準備に入った。

 

 

今に見てなさい、白雪…!

 

 

「異界に通じる門よ、今 我の呼びかけに応じ扉を開けよ!」

 

 

王妃の声を合図に魔法陣は光りだす。そして大きな扉が出現すると、

ぎぎぎと音を立てながら重たい扉が開かれた。

そして王妃は悪魔の召喚を始める。

 

 

「汝、我の願いに応え、その姿を現せ」

 

 

開かれた扉からゆっくりと禍々しい骨ばった手が出てくる。

 

 

白雪はその異様な光景に一瞬息を飲んだ。

流石の白雪も怖気づいたかと思われた、その時。

何を思ったのか、白雪は一歩ずつその扉に近づいてきた。

 

 

「な、なにをする気!?」

 

 

動揺する王妃に相対し好奇心に満ち溢れた顔をしている白雪。

セラはまずいと思い、門に向かって叫んだ。

 

 

「早くしろ!やばいのがそこに居るぞ!」

 

 

この娘、好奇心だけで動いてやがる…!

 

 

 

あともう少しで白雪の手は扉に届く…

 

 

「なにがいるのかな?

 

 

しかしその時だった。

 

 

「あ…ッ!」

 

 

刹那、白雪は足をもつれさせ壮大に転び、床に転がる。

 

 

「「あ…」」

 

 

突如消えるウォズとセラ。

よくよく見ると、白雪の足は魔法陣の文字をかき消してしまっていた。

扉は消え、同じ魔法陣から召喚されたセラ達も魔界に強制送還されたのだ。

 

 

「あれ…、あれ?観客が消えた…扉も!なになに手品!?」

 

 

驚愕している王妃をよそに、白雪は一人楽しげに笑いながら立ち上がり、服をパタパタとはらった。

 

 

「な…にを、してくれたのよ!あなたはぁああ!!」

 

 

王妃は部屋に飾ってあったレイピアをとると白雪に襲い掛かった。

計画は台無しになった。もう王妃の手でどうにかするしかない。

 

 

「わわわ!」

 

 

王妃は鬼の形相でレイピアを突きつける。

しかし白雪はそれを、ひらひらとかわす。

しかしいつまでも逃げられるわけではない。

 

 

ドンッ

 

 

「!?」

 

 

狭い室内だ。白雪はとうとう壁に追いつめられてしまう。

 

 

「死になさい!!」

 

 

そう叫んで、王妃はレイピアを突き出した。しかし…

 

 

ピシッ…

 

 

次の瞬間、無機質なものが悲鳴を上げた。

 

 

鏡だ。白雪は壁にかけてあった魔法の鏡を盾にし、身を守っていた。

鏡はみるみるうちに、ピシピシとヒビが入り、

 

 

 

パリン

 

 

 

と音を立てて割れた。

 

 

「・・・・・ッ!!!」

 

 

王妃は声にならない悲鳴を上げる。

そしてその体はぐらりと傾き

 

 

バタン…

 

 

と床に倒れこむ。まるで魂を抜かれた様に。

 

 

「もう終わり…?」

 

 

白雪はその光景をみて、少しつまらなそうにむくれた。

そして拗ねてしまったのか、もう帰ると言い残し城を後にした。

 

 

 

***********

 

とあるところにひ弱な王子がいました。

王子はお見合いから逃げ出し、隣町まで馬を走らせて来ました。

そして町を歩いていると、一人の少女に目にとまりました。

背中まで伸びた黒髪に、漆黒の瞳、赤くリンゴのように染まった唇。

王子は一目で恋に落ちました。

 

 

そして少女に声をかけようと近づきますが、少女は足早にどこかへ向かって走り出してしまいます。

 

 

「待ってくれ!」

 

 

王子は馬を走らせ、少女に追いつこうとしますが、なぜでしょう。

なかなか距離は縮まりません。

少女は町を離れ、近くの森へ入っていきます。王子も追って森に入りました。

 

 

 

そして、かなり奥地に進んだころ、一つの小さな小屋にたどり着いきました。

 

 

そして、少女が小屋に入ろうとしたその時、王子はめいいっぱいの声を振り絞って声をかけました。

 

 

「そこの君!ちょっと待って‼」

 

 

声が届いたのでしょうか、少女は髪をふわりとなびかせながら振り向いてくれました。

 

 

「…どちらさま?」

 

 

特に警戒することもなく王子に接する少女。

可憐な姿にぼうっとする王子。

 

 

「…あ、えっと、その」

 

 

口ごもる王子に、少女は微笑みながら

 

 

「立ち話もなんだし、どうぞ家の中へ」

 

 

そういって小屋の中へ入るように促します。

 

 

「あ…はい。お邪魔します」

 

 

馬から降り、小屋に入ると、一つのリンゴが置かれたテーブルに、八つの椅子が並べられた部屋に通されました。

 

 

「適当に座ってください、今お茶を用意します」

 

 

「いえ、お気になさらず…」

 

 

「そんなこと言わずに…あ!そのリンゴ差し上げます。

私もう食べ飽きちゃって」

 

 

あははと笑いながらリンゴを差し出す少女。

王子はそれを手に取ると、ありがとうと一言礼を言って顔を赤らめます。

 

 

「じゃあお茶用意してきますね」

 

 

そういって席を離れる少女。

 

 

可憐だ…と、ため息をこぼす王子。

どうせかなわない恋だ。帰ればまたお見合いパーティの日々だろう。

急に悲しくなり、ふとリンゴに視線を落とし

 

 

せっかくだ頂こう。

 

 

と、届かぬ思いと一緒に、王子はリンゴをひとかじりし飲みこみました。

次の瞬間、王子の体はぐらりと地に倒れてしまいます。

 

 

日が高く上りきった、とある月曜日

王子は永遠の眠りにつきました…

 

 

刻結び 短編1.2

ツイッターの方に刻結びのタグを作りました

定期でキャラ情報等上げようと思ってます

 

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今回は短編漫画に挑戦してみたのです

みなもの天界でのとある話

www.pixiv.net

 

お話の中心人物の一人グリムのお話

www.pixiv.net

 

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こちらがグリム氏

私の中ではだいぶゲスキャラです(?)

 

お話の中で出てくる

鳴らない鈴は刻結びでの共通のアイテムです

もう一つ鏡もあるのですがそれはまた別の機会に

 

鈴は大事な時にしか鳴らないという変わったものです

 

世界観の種ー刻結びー和

刻結びについて

世界観は和風ファンタジーと洋風ファンタジーの二つに分かれてます

 

今回は和の方をちょこっとかいていきたいと思います

和の方の主人公は柏木 悠くん

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これは実年齢の姿。普段は幽体離脱して霊体で活動しているため

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こっちの姿。この姿が一番安定して活動できるという設定

霊体なので外見を変えることも可能

普通の霊が見えない人にもすがたを見せることができます。

 

悠君にはもう一つ、「神もどき」としての姿もあります

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刻結びに関しては神様と呼ばれる人たちは登場しない…

本当の神様はいないと言っても過言ではない感じです。

 

誰かが信仰すればそれは神として崇められてしまう

それが例えただの人間だったとしても…なので神もどきと表記しています。

 

悠君に関しては超能力男子…神通力を使えるという設定になっています。

それこそ神様から与えられたものなのです。力が強すぎて肉体にとどまっていると体がもたないという良いのか悪いのかという不自由な生活。肉体に戻らないとデメリットもあるので(肉体から長時間離れすぎると肉体が弱る&他人に乗っ取られる等)

 

大きすぎる力に幼少期から悩まされ、どこぞの武神(真)に生贄にささげられたり、式神に憑りつかれたりと様々なお話があります

 

基本彼は

「自分は人間。それ以上でもそれ以下にもなれない」という考えです

また、退治屋時代の教訓から、救えるものは救いたい

人間から見たら化け物でもその本質を知ってしまえば、それはいくつもの時を重ねた感情あるもの。それをむやみに殺すことは許せないという考えの持ち主

 

天界では武神・真(シン)に助けられ何とか問題解決したりと色んなトラブルに巻き込まれる体質です

 

~真と悠のワンシーンメモ~

 

「悠、お前はもう気付いてるんじゃないのか?」

自分の存在に。その価値は自分の想像を超えると。

なのにどうして、ここにとどまる?

 

「だって、どうあがいても、どんなになっても

例え死んだって、僕はどうあがいても人間だ

誰が何と言おうと、どうしようもなく人間なんだよ」

 

この感情は本物だと言ってその目が潤む。何かに耐えるように、訴えかけてくる

これでいいと思わせてと

 

「そんな顔するなよ、誰もお前を責めないさ」

 

今までの事も責められるはずがない。

罪を産むのはいつも人間。ならそうだろう

どうあがいても、それ以上にもそれ以下にも

なれやしないんだから

 

「僕は人間以外にはなれないよ」

 

多くの事に心が折れた、身を引き裂かれ死ぬほどの思いもした

生きていることが辛いと、苦しいと何度思ったことだろう

それでも自分の周りにはつながってしまった人々がいる

繋がった縁はなかなか切れない

 

人は一人じゃ生きられない

 

沢山の苦しみを支えてくれた人がいた

救えると差し伸べたこの手があった

 

それは生きるという事で、僕にとっての価値であり

人間としての証だから

 

だからね、僕は生きたいと願うよ

人間として、生きていこうと思えるよー・・・

 

こういったキャラです

普段は明るい性格ですが、暗い一面もあり

時には残酷な一面も…

人間には容赦ない時もあったり…。

 

キャラの紹介としてはこんな感じでしょうか!

よろしくお願いします(*´ω`)

始めてみました!

アカウント持っていたのに活動してませんでしたが、もうすぐ春なので(?)活動することにしました

 

このブログでは自創作、「刻結び」について語ったり、活動の進捗などをお話していきたいなぁと思っています

 

このブログに関しての注意点

・設定の変更あり

・気分屋更新

・ネタバレありあり

・そもそも更新しながらお話考えてるので矛盾等は出てきます

 ここでの「完成」はあまり考えていません。ノート感覚です

・過去の設定等も語る

 

こんな感じですがよろしくお願いします!

 

 

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